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東雲の旅

管理人の徒然日記  ~日常のアレコレから制作裏話まで~

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最遊記パラレル 2

 初恋は、土井先生でした。大好きだったなあ、土井先生…いや今でも全然好きですけど。何歳ぐらいだったかは全然覚えてないんですが、夕方6時50分から10分間忍たまがあって、そのあと天才てれびくんを見るのが一連の流れでした。その天てれ見ながら「あれ?土井先生の声がする!」って思ったのが、私が初めて 声優 という方たちを意識したときだったと記憶しています。…何歳くらいだったかなー、小学校低学年? もちろんそのときは純粋にはしゃいでたわけですが、その事実を最近ふと思い出して驚愕しました。今も昔も変わってねぇ、っつーか目覚めんのはえぇなオイ。
 そんなわけで、とある大好きな最遊記サイトをひっさしぶりにいちから全部読み返したら巻き起こったこの最遊記ブームで、わたくしようやく電王見ました。当時は朝起きられなかった上に録画機器もなかったですし、知ってはいたもののなんとなくスルーしてたんですが、まあ初恋が土井先生で画集買いあさるほどガチはまりしてたのが三蔵である私が、電王にはまらないわけないですよね。てかもう普通に面白かったです。最後の方泣きながら見てましたし、「俺、参上!」ってやるときはテレビの前で一緒になってポーズ決めてましたから、ええ。一人で。いつか私に子どもが生まれたら、きっと電王のDVD買いそろえて、子どもと一緒に見るって決めてるんだ…!
 そんなこんなで、今また最遊記に帰ってきました。なんだこのブーメラン。いえ、前回の記事にのっけたやつの続きは、あれ書き終わってすぐくらいからぽちぽち書いてたんですが、「エロい三蔵」を目標に掲げたら、その手前で目標にビビって逃げたんですよねあっはっは。違うんだ…うっかり三蔵のキャラソンとか聞いちゃって、あまりのエロさにひゃああああ!ってなって、書こうとしたんだけど私にできるのか!?私に三蔵のエロさを表現できるのか…!?ってなって、逃げたんだ…! しかし先日、三蔵はあんだけエロいけれどもあいつどーてーだよね?っていう独り言を呟いてたら、フォロワーさんから反応を戴き、かつ前回のプロトタイプ最遊記もだいぶエロどーてー(犯罪者)でしたよって言っていただけたので、調子に乗って頭にあったやつ書ききりました!ビビって逃げ出したわりに、いざ書き始めたらノリノリでした。ちょう楽しかった。
 そんなこんなで、折りたたみは前回の続き、というかシリーズ?っぽい最遊記です。「エロじゃないけどエロい三蔵」を目標に頑張りました。こんなの他に書く機会もなかったですし、これからもなさそうな内容になってます。あんまり使わないだろうなあっていう言葉をたくさん使った気がします。おかげでそういう言葉のストックがなさすぎて使い回し感がヒドイですが、楽しんでいただければ幸いです。

 「何だお前、一応こんなのも書けたのか」って言われるかなあ、言われたいなあ(笑)

○拍手レス○
3月16日 3:13
拍手ありがとうございました!伝えたかったおっさんのかわいさの一端が、少しでも伝わったようでとてもうれしいです。器用貧乏なおっさんを、これからも丁寧に綴っていければと思っています。のろのろ更新で申し訳ありませんが、お付き合いくだされば幸いです。 //

拍手[3回]


 その日の結月は、妙にはしゃいでいるように見えた。
 ロケ先のホテルで、おいしい地酒を貰ったからと酒を持ちだしたのも結月だったし、普段はどうせ勝てないからと渋い顔をするポーカーにも笑顔で乗じ、八戒といい勝負を繰り広げている。元々コイツは集まって騒ぐのも嫌いな性質じゃないから、明日の打ち合わせと称した集まりが、いつの間にかこうして酒盛りになることも珍しくはない。
 だが、それにしても――違和感の原因を探ろうと、三蔵は目を眇める。
「なに負けが込んでるからってムズかしい顔してんですか、三蔵。おーじょーぎわが悪いですよ」
 そう言ってにんまりと笑う結月の顔は赤い。コイツが大して酒に強くないことはこれまでの経験上知っていた。だが、たとえ見知ったメンツだけがそろった酒の席でも、酔いつぶれて無様な醜態をさらすようなことのなかった結月である。いつもよりペースは速いが、コイツの好きにさせておいて問題あるまい。…そう判断を下したのは三蔵だったが、そろそろ撤回しなければいけないらしい。
 ふわふわと、締まりのない顔を晒す結月を鋭く見返し、三蔵はただため息をついた。
「…馬鹿が、飲みすぎだ」
「そんなことないです、全然だいじょーぶです。三蔵、自分が酔ってるからって何ムズかしい顔してんですか、おーじょーぎわが」
「本気で言ってんのか、てめェ」
 きょとん、と妙にあどけない表情で首をかしげる結月は、自分の発言の可笑しさに欠片も気付いていないのだろう。輪郭の溶けたまあるい瞳にじっと見返され、三蔵は小さく舌を打った。コイツ、自分の立場わかってんのか。
「ああダメダメ、結月ちゃん。そんな目であのぼーずのこと見ちゃ」
 酒で顔を赤くした悟浄が、となりに座る結月の肩を抱く。ポーカーで八戒に敵わないのはいつものことだが、今日は結月にも負けているせいで、酒のペースがはやい。つまりウザさは、常の五割増しだ。
「ンな顔してっと、さんぞーオオカミに食われちまうぜ?」
「黙れエロ河童、てめェと一緒にすんじゃねぇよ」
 小道具の小銃が手元にないことが悔やまれた。調子に乗った酔っ払いに、ハリセンだけでは威力が薄い。
「ハッ、ンな物欲しそうな顔しといて、よく言うぜ!」
「…っ誰が、どんな顔だと…!?」
 視界の端で悟空が首をすくめ、八戒が呆れたようにため息をつき、結月が何のことだと眉根を寄せるのが目に入ったが、とりあえずこの有害エロ河童を黙らせないことには始まらない。……というか、この期に及んで 「訳がわからない」 とでも言いだしそうな顔すんじゃねェよ。悟浄に対するそれとは異なる苛立ちも交えつつ、三蔵は低く唸った。
「自覚もねーってのか? これだから手に負えねェな、チェリーちゃんは」
 ほとんど反射的に三蔵は悟浄の胸倉を掴みあげ、椅子から無理やり引き起こした。衝撃で大きく机が揺れ、トランプがはらはらとカーペットに舞うも、氷の浮いたグラスは各々が手の内に確保することで落下を避けている。
 悟浄を睨みつける視界の端では、馬鹿共のみならず、結月までもが己のグラスを取り上げていた。あまつさえ、当たり前のような顔でちびちびと酒を嘗めているのが目に入り、三蔵の瞬間的に沸騰した感情は妙な具合に冷えていく。なんだかひどく馬鹿馬鹿しい気分になって、けれどそれを露骨に晒すのは癪に触り、三蔵は舌打ちと共に悟浄から手を離した。この際、ニヤニヤ笑うだけのゴキブリ河童は黙殺する。
「…飲みすぎだと言っただろうが」
 だが、ただ手を引くだけではつまらない。
 三蔵は、悟浄を開放したその手で、結月の持つグラスを奪った。あ、と間抜けな声が上がるのを無視して、グラスの中に残っていた琥珀色を一気に飲み干す。口の中の氷をガリガリと噛み砕き、呆気にとられているような、唖然としているような顔で自分を見上げる結月に、三蔵はくつりと喉の奥を震わせた。
「まだ、自分の残ってるじゃないですか…」
「うるせェ。…それとも、そんなに惜しいなら、俺のをくれてやってもいいが」
 この程度の戯れは、いつものことだ。それもこのメンツで、酒が入れば尚更のこと。他人の目があるところで、睦言めいた言葉をかけるのは趣味じゃないが、こうでもしないと結月の阿呆は、こちらの気持ちを無かったことにしてしまう。どうやらいつまでもどこまでもすっとぼけていれば、無かったことになるのだと本気で考えているらしい。
 てめェの思い通りになんざ、させねェよ。
 言葉にはせず、けれど声音にそれを滲ませて三蔵は結月を見据えた。無かったことになどさせないし、逃がしてやるつもりもない。こうしてちょくちょく釘を刺しておかないと、この阿呆はどこぞへフラフラと飛んで行ってしまう。
「……っ、結構です」
 だから、結月のこの反応に三蔵は目を眇めた。ざっくり流しているのは相変わらずだが、一瞬言葉に詰まった気がする。逸らされた視線も、普段の結月を鑑みれば不自然だ。
 けれどその程度でなにかを期待するほど、三蔵はおめでたい頭の持ち主ではなかった。どうせコイツのことだ、自分の想像のつかない斜め上に思考を飛ばして、予想だにしない何がしかを言い淀んだに違いない。浮かんだ思索を、結月に関する冷静な観察の域にとどめて、三蔵はゆるく息をつく。…まったく、フラフラ飛んで行こうとするのは、結月も自分の頭の中もそう変わらない。
「ハッ、それが上策だな。…もう寝ろ、結月」
 三蔵の低い呟きに、結月は小さく首肯した。その傍から漏れる欠伸に三蔵は口の端を少しだけ吊り上げ、結月の髪をかき混ぜる。
「悟空、てめェのキーを寄越せ。俺ももう寝る」
「ええ? なんで俺の?」
「…元々、ここが誰の部屋だったと思ってやがんだ、てめェは」
 一つしかないベッドの上には、トランプや菓子袋が散乱している。これらを片付けたところで、まだ解散しようとしない連中を傍らに休むことなど、望むべくもない。投げて寄越したカードキーを受け取って、三蔵は席を立つ。
「えっと、鍵、かぎはー……っと、あったあった」
 続いて立ち上がった結月は、ふあふあと大あくびをもらした。眠そうに目をこすりながら、キーを探して首を巡らせる。
「…っオイ!」
 ようやく目的のものを見つけ出し、ドアに向けて歩き出した結月の体が、不意に傾いだ。その体を支えようと反射的に三蔵の腕が伸び、けれど結月は伸ばした腕からすり抜ける。
 肩口に軽い衝撃。
 見下ろしたところにある小さな肩。
 自身の腕の中にすっぽり収まっているその生き物に、三蔵は思わず息をのんだ。視線の先に力を込めれば折れそうな、細い首がある。
「っと……すみません、三蔵。ありがとうございます」
「…飲みすぎだ、この馬鹿が」
「面目ない」
 ちょっとやりすぎました、と結月が三蔵を見上げて笑う。
 三蔵は、ほとんど暴力的なまでに込み上げる衝動をかみ殺し、その白皙に渋面を広げた。…コイツやっぱり自分の立場わかってねェなと思うにつけ、苦々しさが込み上げてくる。けれどその反面、気取られるわけにもいかないとも思う。言葉遊びは抑えきれないものを、今コイツに悟られるのは御免だ。
 三蔵が結月に望むものと、結月が三蔵に求めるものは質が違う。“あなたはそっちで、私はこっち” という結月の言葉は理解も納得もできないが、それがコイツの考えなのだと思えば飲み込まざるを得なかった。
 三蔵が欲しいのは、全部だ。無理強いして手に入るものではない。ましてや、警戒などされて。
「行くぞ」
「じゃあ皆さん、明日はよろしくお願いします。おやすみなさい」

 コイツ、本当に一度痛い目にあった方がいいんじゃねェのか。
 三蔵は片手で顔を覆ってため息をついた。情けないやら馬鹿馬鹿しいやら、ハリセンを振るうことすら億劫で、溜め息しか出てこない。結月が “こういう奴” であることは重々承知している。だから、情けないのも馬鹿馬鹿しいのも、全部自分自身に対してだ。それがもう、まったくもって腹立たしい。
「――…ったく、そんなになるまで飲む奴があるか」
 三蔵の目の前では、ベッドに放り出された格好のまま転がっている結月の姿がある。むぐむぐと何か言い訳を口にしているようだったが、酔いどれの言葉はシーツが全部吸ってしまった。まあ、どうせ下らないことには違いないから、さして興味もわかない。
 いざ立ち上がってみたら酔いが回ったとでも言うのだろうか、覚束ない足取りの阿呆を支え、ほとんど引きずるようにして割り当てられた部屋の前に立った時点で、コイツは半分眠っていた。カードキーを差し込むだけの動作もたどたどしく、いよいよキレた三蔵はキーをひったくって解錠。そのまま部屋に入り込んでしまった。
 まずった、と思ったのは夢の世界に片足突っ込んだコイツを、ベッドに放り投げて一息ついたときだ。酒のせいか、ひどく難しい顔のまま目を伏せている結月は、顔の左半分をシーツに埋めて、浅い呼吸を繰り返している。知らず、その鼻梁や顔の稜線をなぞる自身に気がついて、三蔵はするどく舌を打った。噛み殺したはずの衝動が再び鎌首をもたげてくるようで、その浅ましさに我ながら嫌気がする。
 「……チッ」
 それにしても、男の前でこんな姿を晒すとは、一体どういう了見なのだろう。しかも自分に気があるのだとわかっている男の前で、である。
 信頼と言えば聞こえはいいが、ただ侮られているようにしか思えない。それに、ここへコイツを連れてきたのが自分以外の誰かでも、同じ姿を晒したに違いないと思うにつけ、三蔵の苛立ちは膨れ上がっていく。コイツは正真正銘の馬鹿だ。そんな馬鹿女相手に思考をいちいちかき乱される自分には、腹立たしさを超えていっそ殺意すら覚える。
 三蔵は踵を返した。これ以上ここに留まったところで、苛立ちが増すだけだ。最後に鼻でもつまんでやろうかとも思ったが、どうせ碌な結果になるまい。
「……んぞ、」
 最初は聞き間違いかとも思った。が、そうではないらしい。ドアへ向かう足を止めた三蔵の耳に、先程より幾分しっかりした口調で彼の名前を呼ぶ声が届く。
 三蔵はその場で逡巡した。今ならまだ無視して立ち去ることもできる。そうするべきだとも思った。
「…さんぞう」
 けれど、その呼び声に背を向けるのは、ほとんど不可能なことのように思えた。決して甘い響きを伴っていたわけではない。浮沈の激しい業界で生計を立てている三蔵である、そんな誘いは掃いて捨てるほど受けてきた。眼光ひとつで拒絶することに、何のためらいもない。…それでも。
「…呼んだか」
 低く呟きながら振り返ると、結月はベッドに転がったまま薄目を開けた。
「ん……あの、三蔵…、」
「なんだ。言いたいことがあるならさっさと言え」
 先を促す三蔵の言葉に、結月が泳がせていた目を伏せる。酒のせいで青白かった頬に、幾分血色が戻ってきているような気がした。それを眺めながらしばらく押し黙っていると、結月はまた視線をさまよわせ始め、三蔵はその物言いたげな視線を自身のそれで縫いとめた。ゆるりと息をつきながら、吐息で結月の名前をかたどる。
「…結月。どうかしたのか」
「……っあの、その…――――、


――――…水、取ってくんないです?」



 ……。
 ……………。
 ブツンっと何かが盛大に断ち切れた音が、三蔵の脳内にこだました。沸々と怒りが込み上げてきて、このまま犯してやろうかこのアマ、と割かし冗談にならない考えが頭の中をぐるぐる巡り、それと同時にほれ見たことかと自分自身の声がする。
 コイツはこういう奴なのだ。少し油断したらこうなのである。ほんのわずかばかりの期待を、十倍の失望でもって投げ返し、あまつさえそれが100点の答えだと割と本気で思っている、コイツはそういう馬鹿なのだ。
 三蔵は無言で、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取った。そしてそのまま、馬鹿の頭めがけて放り投げる。
「あだっ」
 宙を直線的に舞ったペッドボトルは、結月の頭に当たって床を転がった。それでもこの阿呆は起き上がろうとはせず、ベッドにうつ伏せた状態を維持したまま右手だけを伸ばしてペットボトルを探している。これだけ横着が過ぎればいっそ清々しいくらいだな、と感慨にも似た思いを抱きつつ、三蔵は腰をかがめてそれを拾い上げた。そして、チラリと目を上げた結月の後頭部に押しつける。
「…、どーも…」
 もごもごと結月は感謝の言葉を口にしたが、どうせ大半はシーツが吸ってしまった上に、その程度で報われる思いでもない。三蔵はただ溜め息だけで応じた。
 水滴の浮くペットボトルを心地よさそうに頬に当て、結月はやがてゆっくりとした動作でそれを口に含む。しばらくそれを見下ろしていた三蔵は、溜め息とともに踵を返した。
 いつだって気がついたらコイツのペースだ。結月が自分の思い通りに動くことなどごく稀で、それが煩わしいのに不快ではない。そんな相反する思いを抱えて結月の隣に立つことに、三蔵は慣れ始めている。
「……オイ、今度はなんの真似だ」
 それでも、突然降って湧く事態に困惑は抑えきれない。
 つんのめる感覚に振り返れば、結月が服の裾を掴んでいる。半身をこちらに向けてベッドに横たわり、自由な方の腕で結月は自分の目元を覆い隠していた。コイツが突拍子もない行動に出るのはさほど珍しいことではないが、自分の知らない生き物がそこにいるようで、なぜだか妙に気味が悪かった。ずるずると引きずり込まれてしまいそうな気がする。
「………すよ…」
「ああ?」
「…さんぞうが、わるいんですよ…」
 突然の言葉で、三蔵の困惑は怒りに変わった。感謝されこそすれ、詰られる道理などない。
「さんぞうが、ああいうことばっか言うからいけないんです。私はひがいしゃなんです」
 コイツの思考が読めないのは今更だが、それにしたってこの脈絡の無さはなんだ。しかもこちらに対する意味不明な文句を並べたてる割に、シャツを握りこんだ手は離れようとしない。一体なんなんだ。
「結月、お前いま自分が何言ってるか、分かってんのか?」
「…うるせーですよ…」
「あ?」
「うるさいって言ったんですよ三蔵のバカ!アホ! っ、このエロ法師!」
「ンだとてめェ!」
 伸ばされた腕を振り払い、三蔵は結月に詰め寄った。コイツがそんなふうに考えるのなら、言葉通りにしてやろうかという考えも浮かぶ。しかし、指ではじかれたダンゴムシのように手足を丸め、頭を抱える結月を前に、三蔵はただ鋭く舌を打った。
 何を考えているのかほとほと理解できない。面倒くせェと心底思う。このまま捨て置いてしまえば楽なことはわかりきっているのに、そうしたくない理由があって、それはもはや三蔵自身にだってどうすることもできない代物に成り下がっている。…ああもう、死ぬほどウゼェ。
「結月、わかるように言え。俺の何が気に食わない?」
「…っかんちがい、するんですよ」
「何をだ」
「…三蔵は、わからないかもしれないですけど、」
「…言ってみろ」
「っ、三蔵みたいなひとにあんなこと言われて、そっその気にならない女なんてねえ、そんなん、いるわけないってんですよ!」
 …………。
 いよいよ話が見えない。一体コイツは、何の話をしている?
「大体、三蔵趣味悪いんですよ。なんでわたしなんですか、ホント意味分かんないんですよ。三蔵なら女の人なんて選り取り見取りじゃないですか、美人でお金もあっておっぱいも大きい人、選び放題の入れ食い状態みたいなもんじゃないですか! そこで、なんでこんなちんちくりんのわたしなんですか、意味わかんなすぎてなんかもういっそ気色悪いです」
「……。お前、俺を悟浄かなにかと勘違いしてねェか」
「男の人なんて、どーせみんな大差ないですよ」
「他の奴は知らんが、とりあえず俺をそこの枠にハメんじゃねェ。虫唾が走る」
 三蔵は深いため息をついた。まったくこの馬鹿女、俺を何だと思ってやがる。
 ベッドの縁に腰を下ろす。誘われるように腕を伸ばし、手の甲で結月の頬をなぞる。視界を自ら閉ざしているせいだろう、必死に気配を探ろうとする様子は人に不慣れな野良猫のようで、触れると石のように体を固くした。三蔵はくつりと笑みをもらす。
「…なに笑ってんですか」
「別に笑ってなんざいねェよ。……結月、顔上げろ」
 手のひらを添わせながら言うと、結月はくぐもった声で 「いやです」 と答えた。大人しく従うとは端から思っていなかったが、存外その声には芯の通った意志のようなものが込められていて、そこはかとない三蔵の満足感にざばざばと水を差す。
 しばらく押し黙っていると、何も言っていないにも関わらず結月はもう一度、しかも先程よりはっきりとした口調で 「ぜったい嫌です」 と言い放った。ブチッと頭の中で音が響く。三蔵は口の端を歪めた。
「結月……俺を見ろ」
 体を丸める結月を囲うように両腕をつくと、二人分の体重を支えることになったベッドのスプリングがぎしりと軋んだ。微動だにしない結月を間近に見下ろし、もう一度その名前を低く囁く。
「お前がそういう態度なら、俺の方にも考えがあるが」
 流れる髪にくちびるを押し当てる。身をよじって逃げようとするのを三蔵は許さず、隙間から覗いた耳朶をやわく食んだ。「……っ」 電気ショックでも受けたかのように、結月の背が大きく跳ねる。丸めた体をさらに縮こませる結月を尻目に、三蔵はくちびるを触れさせたまま、直接息を吹き込むようにして言葉を紡ぐ。
「結月、もう一度だけ言ってやる。…顔を上げろ」
 事ここまで話が及ぶと、三蔵としては顔を上げようが上げまいがどちらでも構わなくなっていた。しかし、いよいよ三蔵がくちびるを耳朶から首筋へと滑らせると、ようやく踏ん切りがついたのか、それとも看過できない危機を悟ったのか、結月は恐る恐るといった仕草で頭を抱え込んでいた腕をくつろげ、顔を三蔵に向けた。
 こちらの出方を窺う、非難がましくもどこか怯えるような瞳の色に、嗜虐心をくすぐられる気がした。このまま口を塞いでやったら、この馬鹿はどんな反応を返すだろう。脳裏をよぎる考えに、知らず笑みが滲む。
「…三蔵、」
「この期に及んで、まだ無駄口叩くつもりか?」
 そう低く呟いて顔を寄せる。てっきり突き飛ばされるかと思ったが、様子を窺う限り結月にその選択肢は浮かばなかったらしい。好都合である。三蔵は再度、その首筋にくちびるを這わせた。

「三蔵。わたし、これまでお付き合いしてきた男の人って、全員 “こっち側” の人なんです」


 ………それは、今このタイミングで、どうしても言わなきゃならねぇことなのか?
 冷や水を頭からぶちまけられた気分になって、三蔵は顔を上げる。そうそう雰囲気なんかに流されるような女ではないことは承知していたが、それにしたってこう…。舌打ちしそうになるのをすんでのところで飲み込んだ。
 互いの吐息が混じり合う距離にあって、結月の瞳に先程まで浮かんでいたような感情の色はない。平素と変わらぬ、それもカメラを挟んで向かい合ったときに見る目と近しい気がして、三蔵は目を眇める。居住まいの悪いことこの上ない。
「大学でお付き合いしてたのは同じ学部の同級生で、社会人になってすぐこの業界の先輩と付き合いました。それから、スタジオスタッフの人とか、事務所の後輩とか、」
「もういいわかった」
 三蔵は眉をしかめて結月の言葉を遮った。何が楽しくてそんな話を黙って聞いてやらねばならない。情感たっぷりに語られるのも御免こうむるが、何の感慨もなく淡々と語るだけの口調というのもなぜだか腹立たしく、三蔵は苛立ちを隠さない。コイツの男性遍歴など、寝物語にもなりゃしねぇ。
「何が言いてぇんだ、テメェは」
「これまでに、撮られる側の人となんて、お付き合いしたことないんです」
 またその話か、と小さく舌打ちする。
「わたし、お付き合いする男の人は、隣同士で歩いていける人がいいんです。同じものを見て感動して、同じものを見て笑って、同じものを見て悲しくなって、そういうひとがいいんです。…わたしには写真を撮ることしかないから、それで必然的に “こっち側” のひとになってるんだと思うんですけど」
「…それで?」
「三蔵は撮られる側で、わたしは撮る側です。カメラを挟んで向き合うのが普通で、それが一番適してるんだと思います。三蔵の隣に並ぶなんて、到底想像もできないし、したくもないんです。わざわざ好き好んで劣等感の塊になんて、なりたくないですから」
「……」
「三蔵を同じ側で捉えることはできない、っていうの、撤回するつもりはありません。今でもその考えに変わりありませんから。三蔵はわたしのカメラの先にいる人で、わたしはそのカメラのシャッターを切る人間なんです。隣同士なんて、考えられない」
 三蔵は黙って結月の話を聞いていた。それはなにも、結月の発言を理解したわけでも、納得したわけでもない。三蔵はただ、知っていただけである。

 コイツの口が無駄に回るときは、何かを誤魔化そうとしてやがるときだ。

「…言いてぇことはそれだけか?」
 口の端を吊り上げてそう言いながら、三蔵は再び距離を寄せた。「な…っ」 という言葉にならない驚愕の声が頭上から聞こえたが、構うことなくその首筋に顔を寄せ、うすく浮き出た鎖骨にくちびるを落とす。そしてそのまま軽く歯を立てた。
「……っ!」
 声にならない悲鳴とともに、結月が震える。どうにかして逃げ出そうともがく腕を絡めとり、三蔵は笑った。まったく、愚かしいほど馬鹿な女だ。必死になって言い募れば募るほど、自分の首を絞めていることに何故気付かない? それとも、気付いていながら、それでも言わなければならないことだったのだろうか。
 …まあ、どちらにせよ三蔵には関係ない。ようやくこうして手のひらに堕ちてきたものを、むざむざ逃がしてやるつもりなど毛頭ないのだから。
「それで? そういうお前は、今のこの状況にどう言い訳するつもりだ?」
「………」
「言ったな? 勘違いしそうになる、と。その気にならねぇ女はいねぇと。…お前は? お前自身はどうなんだ、結月」
 三蔵を見上げる結月の瞳が揺れた。引き結ばれたくちびるが震え、全身が固くこわばる。…ああまったく本当に、愚かしいほど馬鹿な女だ。
「だ…っだから、それは…」
「それは?」
「…! そっそうですよ、だから、それも勘違いなんです!」
 …俗に言う “嫌な予感” がしたことは、否定しない。
「わたしきっと、舞い上がってこう、全体的に勘違いしてるんです。三蔵のことを、その……すき…とかそうじゃないとか、なんかもう色々ひっくるめて錯覚してるんですよきっと!」
「………」
「それに多分、三蔵のそれだって、なんかきっと勘違いしてるに違いないです。わたしが三蔵の思い通りにならないとか、思う反応を返さないとか、なんかそういうことから…しゅ、執着?して、たぶんそれを恋愛感情と勘違いしてるんだと思……ッ!」
 噛み付くように口を塞いだ。もうこれ以上、コイツのくだらない言い訳を黙って聞いてやる謂れはなかったし、言うに事欠いてこちらのそれすら勘違いなのだと言い募られて、気分よくいられるわけもない。
 口の端からこぼれる悲鳴をも飲み込むように追い立て、もがく結月をベッドに縫いとめる。我ながら飢えた狗みてぇだなと思った。すれば、さしずめコイツは間抜けな野良猫といったところか。すばしっこく、逃げ足の速さだけが特技のような奴だが、捕らえてしまえばどうとでもなる。
 不意にチリッとした痛みが走って、口内に血の味が滲む。せめてもの抵抗とでも言うのだろうか、どうやら組み敷いた猫がくちびるに噛みついたらしい。見下ろした結月は、さながら手負いの獣のような警戒心を露わに、こちらを睨み付けている。三蔵は笑った。まだ真新しく、血の滲む傷痕を舌でなぞる。
「そう思うなら教えてやる。…これが勘違いかどうかは、お前が判断すればいい」
 そしてまた深く口付ける。口の中に広がる甘いような、苦いような香りに、そういえば結月がだいぶ酔っぱらっていたことを思い出した。これを酒のせいにしたり、最悪の場合記憶を無くされでもしたら面倒である。次の機会などそうそう期待できないのだ、この機会にしっかり教え込んでおいてやる。
 三蔵は未だにもがき続ける結月の腕を片手で絡め取ると、空いた手で頬をなぞり、肩に触れた。低く結月の名前を囁きながら、身体の輪郭をなでおろす。
「…っさん、ぞ…!」
「うるせえ。もう喋んな」
 肌の上にくちびるを滑らせる。片手で器用に衣服をたくしあげ、普段人目に触れない薄い腹に、三蔵がその手を触れ



「―――…吐く」

させようとして、止まった。
「………あ?」
「だめ、もうむり。…っでる、でる!」
 反射的に三蔵は上体を起こす。その下から転がるようにして這い出た結月は、備え付けのスリッパさえつっかけることなくトイレに消えた。
 遠くでげろげろ言う声が聞こえる。……ふらつくぐらい、強烈な眩暈がした。


「――…つーかよ、大丈夫か? アレ」
「アレってなんだよ、悟浄」
 三人だけになった室内で、悟浄がぷかりと煙草をふかしながら言った。残り少しの地域限定ポテトチップス(こんぶしょうゆ味)をざらざらと口に流し込み、咀嚼しながら悟空が応じる。「ま、ガキんちょにはわかんねーか」「ガキとか言うなよエロ河童!」 といつもの口論が始まりかけたところで、苦笑交じりに八戒が口を挟んだ。
「三蔵と結月のことですよ、悟空」
「えっ? なんで? 結月、酔っぱらってたから?」
「まあ、それも心配というか、だからこそ心配というか…」
「…? どゆこと?」
「三蔵サマが “送り狼” になっちまうんじゃねーか、ってな」
 悟浄の言葉に、悟空はサッと頬を朱に染めた。
 確かに、三蔵が結月を好きなことは知っている。あの日から三蔵は前にも増して結月を目にかけるようになったし、たまに悟浄みたいなことを結月に言うようになった。そんな三蔵を見るのは初めてだったからなんだか慣れなかったけれど、結月は何も変わらなかったし、三蔵も当たり前みたいな顔をしているから、なんだかんだ言ってるうちに、それが悟空にとっての普通になっていたのだ。
「さ、三蔵に限ってそんなっ、」
「わっかんねーぞ? 最近あの坊主、けっこうマジで欲求不満っぽかったからな」
「ええ。さっきのことにしたって、危うく手が出るんじゃないかって、内心冷や冷やしましたし」
 三蔵に対する彼らの信用なんて、吹けば飛び、突けば破れる障子紙のようなものと大差ない。
「でも、結月は三蔵のことなんて、全然相手にしてねーじゃん!」
「だからこそ、じゃねーか。あんまり相手にされなさすぎるもんで、酔いに任せて……なーんてな」
 からからと笑う悟浄に対し、「んだよそれッ、全っ然笑えねーし!」 と悟空が食ってかかる。悟空にとって、三蔵も結月も欠かすことのできない大事な人間のひとりである。悟浄が言うような、まるで本当に悟浄みたいな失敗で、あの二人がうまくいかなくなるなんて嫌だ。どうせなら、ちゃんとうまくいってほしい。
「……本当にそう思います?」
「八戒?」
 あごに手を当てた八戒は、妙に難しい顔で机の上を睨んでいた。一瞬ぎょっとするも、ああ、考え込んでんのか、という答えに至って、悟浄はひっそり胸をなでおろす。教育的指導、と言う名の鉄拳制裁が入ってもおかしくない流れではあった。
「いえね、さっきの結月の態度が、どうしても気になるというか…」
「ああ、まぁ確かに、なーんか思わせぶりに見えなくもなかったけどよ」
 そんな気にすることかァ? と悟浄が応じ、悟空はこくこくと首を縦に振った。三蔵に飲みかけのグラスを奪われたときの態度は首をひねるものがあったし、よろけて三蔵に抱きとめられるなんて、知らん顔しながらもあの距離感を忘れない結月ならそんな接触は起こさせないだろう。けれど、それも飲みすぎたせいだとすれば、十分理由になる気がする。
「……結月は、なんであんなに飲んだんですかね?」
「あ? …そりゃあれだ、珍しくツキが回ってきたもんで、楽しくなっちまったんじゃねーの?」
「それも、考えられなくはないですけど…」
 それでも、結月があんな風に酔っぱらってしまうなんて、本当に初めてのことなのだ。“三蔵一行” とその専属カメラマンである結月の付き合いは、もう数年に及ぶ。これまで何度もお酒の席を共にしてきたが、いかに悟浄がツブれようと三蔵が管を巻こうと、自分のペースで、好きなように飲むのが彼女のスタイルだったはずだ。
「うーん…じゃあ、わざとたくさん飲んで、酔っぱらったとか?」
 あっけらかんとした悟空の発言に、悟浄と八戒は固まった。まさか、そんな馬鹿な。
 色違いの二対の視線が、部屋のドアへと集中する。より正確に言えば、“酔っぱらった結月と、その彼女を支えて歩く三蔵が消えた方へ向かって” 視線が刺さった。
「…よし。見てこい悟空」
「やだよっ、なんで俺がそんなこと!」
「別に部屋の中をのぞいたりなんてしなくてもいいんです。ただちょっと、様子を窺ってきてくれれば…」
「そんなに言うなら悟浄たちが行けばいーじゃんか!」
「っ、じゃあお前は、アイツら気にならねぇっつーのかよ!?」
「そ…っそれは、その、」
「ほら、悟空だって気になってるんじゃないですか。…ほら、ね? チラッとでいいんです、チラッとで」
「~~~っ! わかったよ、行ってくればいいんだろっ、行ってくれば!」
 どすどすと床を踏みしめるようにして、悟空が部屋の外へ向かう。その背中に、結月が泊まる部屋の階数を伝え、いってらっしゃいの言葉とともに送り出して数分―――尖兵の帰還である。
「どうだった、悟空」
「どうでした?」
 今か今かと答えを待つ、悟浄と八戒を悟空は見上げた。ぽつりぽつりと悟空は語り出し、残る二人は息をのむ。
「……さんぞうが、結月のへやに入るとこ…見ちゃった…」


「…っあれだな、そろそろ寝るか?」
「ええ、そうですね…明日も早いですし」
「うん、寝よ寝よ!」
 あらぬ疑いを孕みながら、夜は更けゆく―――。
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