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東雲の旅

管理人の徒然日記  ~日常のアレコレから制作裏話まで~

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生きてはいました。

がまんできなくてやった。はんせいもこうかいもしていない。

以下折りたたみでTOV、おっさん中心小話(その壱)です。みんなみんな大好きですが、おっさんがあまりにいとおしくてどうにもなりませんでした。独特の飄々とした感じ、胡散臭さが表現できていれば嬉しいです。これからまたがんばります。
ちなみにED後の私得な妄想設定です。ネタバレ、というネタバレはないかと思いますが気になる方はご注意を。

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デフォルト名は「ミズキ」です。件のアホの子ではありませんが、お楽しみいただければ幸いです。



「やあやあ久しぶりね皆の衆! 俺様がいなくて寂しかっ・・・・・・・・あら?」
ノックや声かけのひとつもなく乱暴に扉を開け放ったレイヴンは、右手を高らかに掲げた姿でかちりと時間を止めた。思考停止に陥ったすっからかんな頭の中(かつての魔導器研究、今や精霊研究の第一人者たる少女に頂戴した言葉である)に、秒針が刻む時の音がやけにくっきりとひびく。そういえば、嬢ちゃんを抱きとめるべく両手を広げた状態でしばらく放置という、あの仕打ちにはだいぶ心をくじかれそうになったなあなどと、彼は数年前の旅路を無意識にたどり、それを小さな苦笑でかき消した。思い起こしたのは温かな、というよりはひどくしょっぱい記憶だったが、浮き足立っている自分に気付けないほど彼は曖昧に歳を重ねてきたわけではない。
だがしかし、だからこそ、である。
レイヴンが訪れたここは、帝都ザーフィアスにある『凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)』の拠点に違いなかった。玄関先に皇女御自らが手書きした看板をぶら下げた彼らは、ここを中心に世界中を飛び回っている。立派になってくれちゃって、おっさん嬉しくて涙でちゃう、と言ったところで誰にも相手してもらえないのはご免こうむりたいレイヴンは、この日の訪問を数週間前に伝達済み。あのクールなようでいて情の深い青年とその相棒たるワンコからは冷たい視線をもらう可能性もあるが、“凛々の明星” の首領たる少年と、クリティア族の美女にはきっとあたたかく迎えてもらえるに違いない。幾分かの期待とわずかなうぬぼれと、けれど何よりそれを凌駕する確信でもってレイヴンは “凛々の明星” の扉をひらき、そしてだからこそ、固まってしまった。
部屋にいたのは、レイヴンの目の前にただ一人座っていたのは、まったく見ず知らずの女だったのである。
年のころは22,3といったところだろうか。ユーリ青年と同じ黒髪だが、長さは嬢ちゃんより少し長いくらい。羽根ペンを手にぽかんとした表情でこちらを見上げるその娘さんは、ぱちりぱちりと大きな目を瞬かせ、やがて、
「ああーっ!レイヴン、来てたの!?」
どすっ、ともドカッ、ともとれる衝撃がレイヴンの下半身にはしる。思わずよろめきかけ、けれどそれを悟られぬよう、レイヴンは突進してきた少年を抱えあげた。腕にズシリとのしかかる重みが、しかしレイヴンの笑みを誘う。
「よう、カロル少年。おまえさんまたでかくなったんじゃないか~?」
「えっわかる!? 実は今年に入って3センチも伸びたんだよ!」
「そーかそーか、よかったなあ。・・ま、俺様にはまだまだ遠く及ばないけどねん」
「何ほんきで張り合ってんだよ、おっさん」
むくれるカロルを床におろしつつ、レイヴンは背中を振り返る。
「よぉ、青年。元気そうでなによりだわ」
「おっさんもな。・・足腰はだいぶ弱っちまったみてーだけど」
・・目ざといのは相変わらずのようで。
「おおッ、ジュディスちゃあん久しぶりぃ! 元気にしてた?おっさんいなくても大丈夫だった?」
「そうね・・おじさまがいないと、やっぱり少し寂しかったわ、私」
「んも~、言ってくれればおっさんいつだってジュディスちゃんの元に駆けつけたのに~!」
自分で自分の腕を抱き、くねくねと体を踊らせるレイヴンの耳に、「レイヴンも相変わらずだね」というカロル少年の言葉が届く。んもう、少年それどういう意味よっ、と応じた彼は、微笑むジュディスの後ろで言葉を交わすユーリと見知らぬ娘さんの姿を目にとめ、口をつぐんだ。腰に手をあて、首を傾ける青年の顔には気安い笑みが滲んでおり、だからこそレイヴンはおっ?と思う。
世界を守る旅路でほとんど常に先頭を歩いていたこのユーリという青年は、内弁慶ならぬ外弁慶とでもいうのか、“外” の人間に対して妙に警戒心が強いところがある。それはレイヴンのユーリに対する第一印象で、それはあの旅路を経て今なお揺らいでいない。逆にいえばこの青年は、自分の懐に入れたものに対してはどこまでも真摯で面倒見がよく、それを守るためなら自分が傷付くのを厭わないしなやかな強さをもっているという証明に他ならないわけだが、いま青年が覗かせている笑みは、その “自分の懐に入れたもの” に対する気安さが滲んでいるように思えた。図らずも青年の懐に転がりこんでしまった、というか気付いたら引きずり込まれていたレイヴン自身が思うのだからまず間違いない。間違いない、と言い切れる自分が我ながら気持ち悪い。
「少年、少年」
レイヴンはその場にしゃがみこむと、ちょいちょいとカロルを手招いた。なに?と首をかしげて駆け寄ってくる少年の肩を問答無用で抱きこむと、わざとらしく声をひそめ、カロルに耳打ちする。
「もしかしてあのお嬢さん、青年のイイ人?」
んなワケねぇだろ、という絶対零度を体現した青年のクールなツッコミと、そっか、レイヴン初めてなんだっけ?という少年のあっけらかんとした声がレイヴンの耳を突いた。青年の皮肉、魔導少女の暴言にもまれてきたせいか、カロル少年はこの程度の言葉では大した反応を見せなくなってしまった。昔はよく大袈裟なくらい反応してくれたのになぁ、と一抹の寂しさがレイヴンの胸を襲う。・・おっさんのせいじゃないよ!おっさんのせいじゃないったら!
「あのねミズキ、このひとが前に話したレイヴン。覚えてる?」
ああ、と少年の言葉にうなずいた彼女は、笑顔で続けた。
「温泉でのぞきをしたっていう?」
うん、そうだよ!というカロル少年の笑顔の首肯を思わず叫び声で遮ってしまったが、自分に非はないと思う。まだ会ったこともない人――しかも女性だ!――に、一体なんつー話をしてんのよっ、とレイヴンは吠える。もっと他にいろいろ話はできるはずだ、なぜよりによってそこをチョイスする。成程どうりでこのお嬢さん、カロル少年の半歩後ろからしか自分と話をしないわけだ。グスッ、とどこまで冗談でどこまで本気か、自分でもよくわからないまま鼻をすする。
「あのねぇ少年、もっと他にあるでしょ、俺様の魅力を語るのにふさわしい美談がさあ!」
「「・・・・・?」」
少年と青年が示し合わせたように無言で首をひねるのは、冗談で、かつ、おっさんに対する愛情のあらわれだとレイヴンは信じている。
「でね、レイヴン。このひとはミズキ・クロノ。“凛々の明星” の新しいメンバーだよ!」
うすうす予想はしていたが、実際言葉にされるとやはり驚く。あの旅の中で発足したギルド “凛々の明星” は、星喰みを撃退した後も活動を続け、今やユニオンでも屈指の有力ギルドだ。けれどその構成員たる彼らは変わることなく、こうして少数精鋭を地でいくギルドとしても名が通っていた。別に選り好みしてるわけじゃねぇんだけどな、とぼやいたのは首領を支える黒髪の青年。そうだよ、みんな話をしに来てもなんでか帰っちゃうんだ、と残念そうに語ったのが首領たる少年である。
そんな “凛々の明星” に入った新しい団員に興味がわかないわけがない。レイヴンの翡翠が好奇心で光る。
「といっても、私はただの事務要員ですけどね」
「もうっ、ミズキはまたそういうこと言うんだからー! 事務要員でもなんでも一緒だって言ったでしょ!」
「ほーらボスがお怒りだぞミズキ。ちゃんと謝っとけよー?」
子どものように(いや、実際少年は子どもなのだが)頬を膨らませるカロルに、彼女は控えめな苦笑を浮かべた。どこか一線引いた言い回しだな、とレイヴンは思ったが、彼女がこういう発言をして少年や青年に諌められるのは、どうやら今回が初めてではないらしい。ただ単に遠慮がちな性格なだけかもしれないが、自分たちの周りにいるのが 遠慮 の二文字から遠く離れたところにいる人間たちばかりであるせいか、レイヴンにはそれが妙に新鮮に映った。口を開くかと思いきや、カロル少年に怒られて困ったように笑う彼女は、それでももう言葉を続けるつもりはないらしい。レイヴンはいくぶん慌てて言葉をつなぐ。
「でもじゃあ、ちょーどよかったじゃない。お宅ら、お金の管理とか運用とかするの、苦手そうだものねぇ」
「・・おっさんにだけは言われたくないセリフだな」
「えー? ボクそういうの結構好きだけどなー・・あ、ミズキの仕事をとるつもりはないけどね!」
「少年の場合は “管理” じゃなくて “貯蓄” っていうのよ」
「確かに、それ言えてるな」
「ふふ、言い得て妙・・ね」
「そんなー!ユーリはともかくジュディスまでヒドイよ!ボクがけちんぼみたいに!」
どうやら、首をわずかに傾けて微笑むのはお嬢さんの癖であるらしい。くすくすと笑う口元を手で隠しながら彼女は笑う声を空気に溶け込ませ、瞳をたゆませた。そうして笑う姿はレイヴンの目にどこか幼く見え、第一印象から受けた年齢の推測を揺らがせる。エステル嬢ちゃんと同じくらいの年齢か、いやだがそれにしてはいやに落ち着いているような――。そして、ふむ・・とあごに指を添わせて思考しはじめるレイヴンの頭に軽い衝撃。
「おいおい、ウチの大事な会計係をヘンな目で見るのやめてくれよな、おっさん」
「誤解を生むようなこと言うのよしてよー。おっさんはただ単に、ミズキちゃんかわゆいなーって・・」
「それでレイヴン、何しに来たの?」
なんでもないように少年が言葉を挟むから、レイヴンは反射的に頭を切り替えてしまった。視界の端で大きな目をぱしりぱしりと瞬かせるお嬢さんに、フォローの言葉が必要なんじゃないかという考えが頭をよぎる(だってあのまま流されたら、下手したらただのセクハラだ)が、がここに立ち寄ったわけを質されて返事をしないわけにもいかない。「おっさんの言うことはあんま考えすぎなくていいと思うぞ。・・ただ、ウザかったらウザいってはっきり言えよ?」――ってうるさいわよ青年!
「あのねーおっさんねぇ、これからすぐダングレストに戻らなきゃならなくってぇ、」
「語尾伸ばすな、おっさん。気持ち悪い」
「・・・・・・。だからぁ、バウルでおくってくれるとォ、おっさんすっごく助かるんだけどォ」
はあ、とため息をついた青年は、気を取り直すようにお嬢さんを振り仰いだ。彼女はすでに、机上の手帳に目を落としている。
「――ってわけなんだがミズキ、あっちのほうでなんか仕事とか入ってたっけ?」
「リタにいくつか届けなければならない素材があった気がするのだけれど?」
ジュディスを振り返り、彼女がうなずく。「はい。約束の素材は入手済みなので、あとはハルルに届けるだけです」
「リタにはもう連絡したの?」
「数日前、手紙を出しておきました」
「うん、いつもありがとう、ミズキ!」
じゃあ先にレイヴンをダングレストで降ろして、それからハルルだね!、と明るいカロルの声が響く。
なるほど確かに、お嬢さんが “凛々の明星” に加入した効果は確からしい。元から小回りのきくギルドではあったが、その俊英さに磨きがかかったように思うのはレイヴンの贔屓目ではあるまい。そうして目を丸くしている間にも話はトントン拍子で進み、既に少年なんぞは外に走って行ってしまった始末だ。表から高らかに名を呼ぶ声がする。
「カロルー、あんまはしゃぐとこけるぞー! ・・じゃあミズキ、悪ィが留守番は任せた」
「あら? ミズキちゃんは一緒じゃないの?」
てっきり彼女も含めた、みんなで行くものだと思っていたのだが。ひとり、部屋を動かないミズキを振り返り、レイヴンが口を開く。一線引いたような印象がぬぐえないとはいえ、せっかく年頃のお嬢さん、それも “凛々の明星” の新メンバーである。親交を深めておくに越したことはないし、ギルド参加の理由やいきさつにも興味がある。
「高いところが苦手なんだよ。・・な、ミズキ?」
再び翡翠の瞳に好奇心を宿したレイヴンだったが、そんな彼に返事をよこしたのは、淡い苦笑を浮かべた彼女本人ではなく、なぜか呆れたような表情を浮かべた青年だった。ご丁寧にため息のオプションまで付けてくださってまァ、嬉しくないことこの上ない。
あのねえ、おっさんは青年じゃなくて、ミズキちゃんに聞いてるの! そう言おうとして口を開くも、表から自分たちの名を呼ぶ声が轟いて出鼻をくじかれてしまった。言葉がため息となって散り、後に残るのは苦笑い。
「ユーリ、レイヴンー! もうっ、何やってるのさ! 早くしないとおいてっちゃうよー!」
「わかったわかった、すぐ行くよ。・・行くぞ、おっさん」
「・・・はいはい。じゃあ、また今度ね、ミズキちゃん」
我ながら大仰に肩を落とし、居残る彼女に向かって手をひらひらさせたレイヴンは、先に歩きだしたユーリに続く。いってらっしゃい、という声を背中に聞いたのはちょうど扉をくぐったくらいのタイミングで、その時不意に、カロルの声によってかき消されていた言葉がレイヴンの脳裏に閃いていた。そして彼は、改めて首をひねる。

―――そうだ。彼女はあの時確かに、俺を見てこう呟いた。


「―――・・ほんもの、だ・・・」


鈍色の夢:7-1
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