何も考えられなかった。悔しいとか悲しいとか、思い返せば溢れかえる感情に飲み込まれそうになるくらいなのに、思考や感情のスイッチが切れてしまったように何も考えられなかったし、何も感じなかった。ただ、ぎゅっとくちびるを引き結んで地面を睨みつけて、まっすぐ歩くことが精一杯。他のことに割いている余裕なんて、私にはカケラだってなかった。
だから、あの黄色の鮮やかさが今でもまぶたの裏に残っている。
どんよりと灰色の雲が垂れ込めた空の下、そびえたつ重々しいビルと足元を埋める黒いコンクリート。行き交う人々の表情もどこか鬱々として薄暗く、堅苦しいイメージばかりを与えるスーツに身を包んでいるひとばかりの空間で、彼の存在はひどく浮き上がって見えた。うすっぺらで厚みのない世界、たくさんののっぺらぼうが時間を気にして流れて行く世界の中でただひとり、彼だけが。
ビルの中から出てきた咲は、俺のことをまるで幽霊でも見るような目で見つめた。そんなに気を張っていたのだろうか、やがて 「咲」 という人間を形作る輪郭がくにゃりと歪む。ぽろぽろと崩れ落ちてしまいそうな輪郭を間一髪でつなぎとめた彼女は、足元を睨みつけ、表情を強張らせて必死に唇を引き結んでいた。謝りたいことがあって、聞きたいことがあった。けれどそんなものは、スカートにできた茶色の染みや今にも泣き出しそうな表情の理由の前でその優先度をぐんぐん下げていく。
チラチラと咲に向けられる好奇の視線がわずらわしい、そんな奴らの目に一秒だって長く彼女を晒しておきたくなかった。まっさらだった咲が、その視線に触れるたびゆっくりとコンクリートの色に侵食されていく気がして、俺はバイクを走らせる。咲を後ろに乗せ、まるで何かから逃げるように。
やがて泣き出した空の下、俺は泣いている咲にキスをした。
お分かりいただけるかと・・というかもはやバレバレだとは思いますが、ここ数日書き散らしているエデン関係の散文は好きなシーンを元に書き起こしています。5話の ※ただしイケメン(てゆーか滝沢)に限る 的なちゅーはもちろん、最終話で自分から手を伸ばす咲とその手を引いて走り出す滝沢(を呆然と見送る大杉)、10話の新幹線でばらばらになるところ、そして今回 「そのタイミングで現れたらおま、そら惚れるわ、惚れてまうやろ」 というタイミングで現れてくれた王子様と泣くのを必死にこらえる咲ちゃん、そこから義兄への想いを吐露するあの一連の流れは何度見ても私の涙腺を決壊させやがります。いちいち何をするにも滝沢はイケメンで、なんかずっこけてるのにスマートで、お願いだから咲ちゃんを幸せにしてやってくれと祈りたくなるんですけどこれ私だけじゃないよね? これを言ったら元も子もないというか世界観ぶっこわすことになる、「おま、それなんていうスイーツ(笑)」 って言われそうなのは重々承知ですが、もうどうしょーもないこんな国放っておいて咲ちゃんだけの王子様になっちゃえよ滝沢、とね・・つい思っちゃうんだ・・・・いやそれをしたら滝沢じゃないとも思うんですけどね。昨日でようやくゼミが終わってホッと一息つけるかと思いきや再来週には中間発表が待ってたりとかするんですが、ちまちま時間を取りつついい加減 「微睡む」 に力を注いでいこうと思っています、ので、後はあの船のシーンを書いたら・・・だってだって、ここまで来たら2話のあのシーン書かなきゃだめでしょっ。あのシーン最高にきゅんきゅんしたよ、何度見ても見直すたびにほわってするよ、お前らもう付き合っちゃえよって思うよ← ・・・・・ああ、やっぱりエデンを見るとカラフルでふあふあしたの書きたくなるなァ・・。