「ちょ、何点やった?」
教室の中にはざわめきが満ちている、次々に返却されてくるテストを受け取って、赤くなったり青くなったりする友人たちの顔。近くの席に座った友人の手元を覗き込み、並んでいる赤丸の数に私の口元が引きつるのが分かる。勉強してないとか言ってたくせにやっぱりしてやがったなコマ井のやつ、そうだよコイツはこういう奴だよ、いちいち彼女の謙遜を真に受けて、いちいちテスト前にホッとする私のほうに問題があるんじゃないかとかそんな正論はノーサンキュー。
「・・・・・・・・・・・・うーわ、」
「何それ!? 私、なんだかんだ勉強したし!」
だったらそれをテスト前に言え。私はそう言いかけて、けれどテスト前に聞かされていたら全力で顔を青くしていることが簡単に目に浮かんで言葉を飲み込む。結局、勉強しなきゃ勉強しなきゃと思いつつ、ネットラジオに現を抜かしていた自分が悪いのだ、わかっている。明日ある集団面接のための対策だってまったくのノープランだ、当たって砕けてくるつもりだが再生不可能なところまでぶっ壊されたらどうしようとか思ってる割に、笑顔動画にアクセスする自分が悪いのだ、わかっている。
あーあ、これで何度目だよ。皮肉に口元をゆがめて私は席を立つ、赤い直線が目立っているであろう解答用紙を受け取るために。幸い、学籍番号が後ろのほうの私が教卓にたどり着こうと、既に自分のテスト回答を受け取った連中は目もくれない。まったくもってラッキーだ、覚悟していても受けるショックはやはり大きいに決まっている。
目の前に差し出された解答用紙にざっと目を通し―――そして私は絶句する。解答欄を大きくひとまとめにするように記されている赤丸ひとつ・・・・・え、うそ、何コレどういうこと? ちょ、え、・・・・・え?
「・・・・・・・・よくがんばったな」
そう言って私の頭にぽん、と大きなてのひらが触れる。体の芯にじんと響く心地よい低音が降ってきて、思考が止まった。ゆるゆると持ち上げた視線の先で、滅多に笑わない先生が小さな笑みをのぞかせている。
「・・・た、大佐・・・・・・!」
なんて夢オチ、我ながらビックリして跳ね起きた午前六時。最後の最後は確実に笑うところだと思います、先生って言いながら大佐って呼ぶ私。どんだけ大佐好きだったんだっていうね、しかもどんだけテストのこと気にかかっているんだろうっていうね。ところどころ誇張しまくりましたが、大筋はマジです。ホレイショの声に夢の中でもきゅんきゅんしてたという薄らぼんやりした記憶が在ります、なんか心底喜んでた・・・うわぁ、私・・うわぁ↓ 冷静になった今では自分でもドン引きですが、でも朝の目覚めは妙にテンションの高い状態でした。「うは、ちょ、大佐出てきた・・!」 ってなってた・・・・うわぁ、私・・うわぁ。今日も私はこたつむり、テスト勉強すすまない、集団面接ちょう怖い、誰か私を嫁にして。(なんとなくリズムに乗ってみたりして、なんたる現実逃避)